二本の足で歩くこと。

そんな当たり前のことがある日突然

できなくなると、老いは想像を超えた

スピードで進みます。

 

早い段階でその兆しを見つけて、車椅子

や寝たきり生活を避けるためには、

どうすればよいのでしょうか。

 

自覚症状があるとは限らない

事故や病気で歩くことができなくなったことが

原因で、高齢者が大きく健康を損ねるのは

しばしばある話です。

 

実は、歩くことは認知機能と直結して

います。

具体的には、動くと目からいろいろな

情報が入ってきます。

 

その情報を処理することで脳を使うの

ですが、ベッドに寝たままだと

そのような刺激がなくなります。

 

高齢者が安静にしなければいけないと

いっても、数週間も寝ていれば、かなりの

確率で認知症になってしまいます。

 

認知症になれば、ますます外に出なく

なり悪循環になっってしまうわけです。

その他にも歩かないことで健康上の

不都合が出てきます。

 

たとえば運動しないのでお腹が空かず、

胃腸の働きも悪くなります。

それがきっかけで便秘にもなります。

 

自力で排便することができないから摘便

といって他人の力を借りて便を出すしか

ない症例があります。

便が出ないと腸閉塞に悪化します。

つまり、内臓機能が全部、落ちていくのです。

 

また、睡眠にも障害が出ます。

人間は朝、太陽光を浴びることで体内時計が

リセットされ、一日のリズムが作られます。

 

しかしずっと部屋にこもって日の光を十分に

浴びなければ、次第に昼夜逆転現象が起きて、

不眠症に悩まされることになります。

 

睡眠不足は糖尿病などの生活習慣病だけ

でなく、認知症やがんのリスクを上げる

こともわかっています。

 

逆に、歩くことで内臓の機能や認知機能は

活発化します。

最新の研究では、歩くことで脳の海馬の

神経細胞が再生することがわかってきました。

 

これまで神経細胞は減ると元に戻らないと

考えられてきましたが、歩くだけで神経

細胞が増え、認知症がよくなる可能性が

あります。

 

歩くことで心臓の音もよくなるし、いい

便も出る。血の巡りが良くなって肩こりまで

改善します。

 

「歩く」という当たり前の営みは、これほど

までに重要なのです。

逆にいえば、「歩けなくなること」が、元気で

長生きするためのいちばんの敵だといえます。

 

人が歩けなくなるまでの過程はそれぞれですが、

きっかけとなる病気や怪我にはいくつかの

パターンがあります。

 

脳卒中を患って下肢が麻痺してしまう。

認知症を患って外出を制限されるうちに

足腰が弱ってしまう。

ふとしたことで転んでしまい、骨折を治療

しているあいだに筋肉が落ちてしまった。

 

そのような理由で歩けなくなってしまう

兆候はかなり若いうち、50代頃から

現れます。

 

早い段階でそのようなリスクを排除する

ことが、「歩けない人」になるリスクを

遠ざけることになります。

 

たとえば、糖尿病のような生活習慣病は

できるだけ早めに対処する必要があります。

糖尿病を患うと血管が太くなり、神経が

鈍くなります。

 

活性酸素が体内のコラーゲンに染み込み、

コラーゲンが硬化します。

そうなると血管や神経が悪くなるのです。

 

そして最終的には骨までもろくなるのです。

高血圧や高脂質も脳卒中のリスクを上げる

ので要注意です。

このような生活習慣病のほかにも、歩けなく

なる兆候はいろいろあります。

兆候、というと自覚症状だと考えられがち

ですが、自分では気づいていないが周囲が

気づく他覚症状、さらには検査によって

初めてわかる兆候もあります。

 

たとえば、本人はまっすぐ歩いているつもり

でも他人から見ると歩き方がおかしい、

話しているときに首が安定しない、手が震える、

といった症状があります。

 

そういう人は本人が自覚していなくても筋肉や

骨、神経が弱っているのです。

 

50代でまだまだ健康だと思っていても、他人

から見るとおかしな動作をしている場合がある

ので、思い当たる節があれば身近な人に聞いて

みてもいいでしょう。

 

歩き方でいえば、膝が曲がっている、重心

移動がスムーズでないためドンドンと足音が

大きいというような人は、無駄な負担が骨や

筋肉にかかっている可能性があるから

要注意です。

 

すり足で歩く人は危ない

人間ドックなどでMRIを撮ると骨の様子や

筋肉のつき方がよくわかります。

骨粗鬆症は適切な投薬や運動で大きく改善

できますから、自分の骨の状態を知って

おくことは大切なことです。

 

また腰の周りに脂肪が多くついていて筋肉が

しっかりしていない人は将来、椎間板に痛みが

出て、歩けなくなってしまう可能性が高いです。

これは運動や食生活を見直すことができます。

 

普段から、すり足気味で歩く人も注意したほうが

いいです。

足が上がりにくいのは筋肉が衰えている証左です。

すり足だとちょっとした段差でも転倒につながり

やすいです。

 

転んで骨折して歩けなくなりそうな人は一目で

わかりやすいです。

たとえば骨が弱い人は関節が変形していて、足が

O脚になって、歩き方もギクシャクしています。

 

また、筋力が弱くなっているため、背は前に

曲がっているのに、重心はかかとにあるような

人は転びやすいです。

 

転倒を招きやすい病気にも要注意です。

たとえば関節症(とくに膝関節症)、

視覚障害(白内障、緑内障、糖尿病性

網膜症)、前庭機能不全(めまい、

ふらつき感)、自律神経障害(めまい、

ふらつき)、頸髄症(ぎこちない歩き方、

手足のしびれ)などです。

 

これらの病気がある人は、転倒の危険性が

高いことを自覚しておいたほうがいいです。

 

薬でふらついて骨折

だが本当に怖いのは、これといった持病もなく、

自分は健常だと思っている人のケースです。

たとえば薬を飲むことで健康な人でも、

めまいや立ちくらみが起こることがあります。

 

薬の副作用によって転倒発生率が上がる場合が

あります。

たとえば安定剤、睡眠剤、薬剤性パーキンソン

症候群などの薬を服用している場合は、普段

以上に転倒に気をつけなければなりません。

 

特に最近問題になっているのが、睡眠剤です。

高齢者には慢性的な睡眠不足に悩んでいて、

睡眠剤を常用している人が多いです。

 

これまでよく処方されてきたのがベンゾジアゼ

ピン系と呼ばれるタイプ(ハルシオン、レンド

ルミン、リスミーなど)の薬です。

 

睡眠は健康のために必要不可欠ですので、

睡眠薬の使用自体は否定できません。

高齢者が質の良い睡眠を取れなくなると、

翌日の活動量が落ちてしまい、また夜眠れ

ないという悪循環に陥ってしまいます。

 

そこで、弱い薬を少なめに服用することを

お勧めします。

特にベンゾジアゼピン系の薬は頭がボーっと

することがあり、転倒する危険性が高まります。

 

最近ではオレキシン系という比較的安全性が

高いとされる睡眠薬(ベルソムラなど)も

出てきているのですが、ベンゾジアゼピン系の

薬には常習性があるので、『この薬でないと

眠れない』という症状が多い問題があります。

 

この種の薬を飲んでいる人は、お医者様と

相談しながら他の薬に切り替えるか、量を

次第に減らして断薬する努力をしたほうが

よいです。

 

転倒の危険性が高まるのは睡眠薬だけでは

ありません。

多くの高齢者が飲んでいる降圧剤や糖尿病の

薬も、体調などにより薬の効果が強く出過ぎると、

過度の低血圧、低血糖になって、めまいや

ふらつきが出ることがあります。

 

高齢者になると肝臓の機能も衰えてくるので、

先に飲んだ薬の成分が分解されないままに、

次の薬を飲むことにもなりかねません。

危険な転倒を防ぐためにも、薬の量や飲み方

には十分注意を払う必要があります。

 

転倒して、骨折してしまうのは、骨が弱く

なっていることも一因です。

骨粗鬆症は骨折し、寝たきりになるリスクが

高まるという意味で危険な病気です。

 

しかし、高血圧や糖尿病などの生活習慣病に

比べて、骨粗鬆症の治療は軽んじられている

ように思います。

 

一般に、脳卒中や糖尿病になるリスクは認識

されているのですが、骨が弱くなり、骨折を

くり返してしまうことの恐ろしさに気付いて

いない人が多いです。

 

骨粗鬆症は薬を飲むことで骨折する確率が半分

以下になるというデータもあります。

特に骨が弱くなりやすい女性は、75歳を

超えたらきちんと治療することを意識する

必要があります。

 

 歩けるうちにとにかく歩く

骨粗鬆症と近い病気ではサルコペニア症が

あります。

前者が女性に多い病気であるのに対し、サルコ

ペニアは男性に多いです。

 

これは加齢や疾患により筋肉が年相応以上に

減ってしまう病気です。

足の筋肉が減り、足腰が弱くなって転びやすく

なってしまいます。

 

足が極端に細い、歩くスピードが遅いという人は

サルコペニアの可能性があるので早めに対策を

したほうがいいです。

 

具体的には積極的にたんぱく質やビタミンDを

摂って、筋トレをすることです。

ビタミンDは魚類、卵の黄身などに多く含まれる

栄養素だが、紫外線を浴びることによって皮膚

でも合成されます。

 

食事に関しては他にも面白いデータがあります。

納豆の消費量と骨折の発生率には相関関係があり、

納豆の消費量が少ない西日本のほうが骨折する

人の割合が多いのです。

 

納豆にはビタミンKというカルシウムの骨への

沈着を助ける栄養素が多く含まれています。

100歳になっても元気に歩ける人は、

どんな食生活を送っているのでしょうか。

 

たんぱく質やカルシウムの摂取量がポイント

になります。

自分が歩けなくなる状態にどこまで近づいて

いるか、チェックする方法もあります。

 

日本整形外科学会が2007年に提唱した

概念に「ロコモティブ・シンドローム」が

あります。

 

これは骨や関節、筋肉など運動器の衰えが

原因で、歩行や立ったり座ったりするなどの

日常的な動作に障害がある状態を指します。

記事末のチェックリストを利用して自分の

体力の衰えを把握しましょう。

 

ロコモティブは歩けなくなる人の予備軍です。

歩けることは歩けるけれどフラフラしてしまう。

こういう人たちが歩けなくなる前にトレーニング

をして、しっかり歩けるようにして、要支援

の人が要介護にならないようにしようという

動きが始まっています。

 

国が各自治体に号令をかけて、各地で老人

体操教室が開かれるようになっているのです。

このような教室に通うことは歩行不能予備軍

から抜け出すのに有効だと思います。

 

まとめ

結局、歩けなくならないための対策としては、

歩けるうちに、正しい歩き方で歩き続ける

ことがいちばんです。

 

まずはこまめに歩くことです。

歩く体力がある限りは100mでもいいので

自分の足で歩きましょう。

 

歩くことで血流がよくなって脳が活性化します。

手を振りながら歩けば、胸や背中の筋肉も使う

ことになり、全身運動ができます。

 

駅の階段も無料のフィットネスだと思いましょう。

普段意識することはないでしょうが、自分が自分の

足で歩ける幸せをかみしめて積極的に運動すれば、

寝たきり生活はおのずから遠ざかっていくに違い

ありません。